後藤祐輔 「アムール」エグゼクティブシェフ
ベターホームの<シェフに習う:フランス家庭料理の会>を担当して8年。定番フレンチをセンスよく仕上げるコツや、経験に裏打ちされた確かな技術で多くのファンを魅了してやまない後藤祐輔シェフ。この春、新講習会<後藤祐輔シェフ監修 おいしい洋食>が発表されるのを記念し、少年時代の思い出や壮絶な修行経験、フレンチレストラン「アムール」でエグゼクティブシェフとして活躍するまでの道のりをたっぷり語っていただきました。
多くのメディアに登場し、すっかりお茶の間でも人気の後藤シェフですが、実は“人見知り”という意外な一面も。そのほか、知られざるプライベートのエピソードも必見です。
Profile
ごとう・ゆうすけ/1979年東京生まれ。2012年に、西麻布(現在は広尾に移転)にオープンした「アムール」の総料理長に33歳で就任。わずか半年でミシュラン1つ星を獲得。2019年まで7年連続で星を維持する。2014年からシェフに習うコース<フランス家庭料理の会>講師を務め、家庭で手軽に作れるフレンチとして好評を博す。2022年5月開講のベターホームの新講習会<後藤祐輔シェフ監修 おいしい洋食>の監修を務める。
サッカー少年
漫画『キャプテン翼』がバイブルと語る後藤シェフ。小中高とサッカー部に所属し、ボールを追い続ける毎日でした。お父さまが料理人だったものの、後藤シェフ自身は、子どもの頃は料理にまったく興味がなかったそうです。両親が共働きで忙しく、サッカーの練習からおなかをすかせて帰った後藤少年は、自分でチャーハンを作るように。そのうちに、日々おいしいチャーハン作りを探求するようになっていたとか。「自分で食べたいものを作っていただけ」と語りますが、「おいしさを探求」するあたり、当時からすでに料理人の片鱗が見え隠れしていたのかもしれません。
料理の道へ
高校3年生で進路を考えたとき、「手先が器用で、もの作りが好き」…そんな長所を活かせる将来を漠然と思い描き、3つの専門学校の体験入学へ。美容師、建築デザイン、そしていちばん興味をもったのが調理師の専門学校でした。「料理って楽しい」と感じ、入学を決めましたが、実際に学校が始まると、レストランでのアルバイトに夢中になり、学校を休みがちになることも。あっという間に1年間の専門学校生活は終わってしまいました。
そんな折に目にした、フランスを紹介するパンフレット。海外旅行の経験がなかった後藤シェフは「かっこいい」とフランスに一目ぼれ。フランス料理に強い思い入れがあったわけではなく、「とにかくフランスに行きたい!」と渡仏を決めました。
希望に胸をふくらませたフランスでの新生活のスタートでしたが、専門学校の提携をつてに配属されたアルザスの三つ星レストラン「オ・クロコディル」で、人生初の挫折を味わうことになります。慣れない海外で初めてのひとり暮らしは、相談できる日本人もいない。与えられた仕事は満足にこなせず、毎日のように厳しく叱られるけれど、何を言われているかわからないという日々は思った以上に苦しく、沈み込むばかり。結局、何もできないまま半年の滞在を終え、日本に帰国する日を迎えました。
「このままだとフランスのことが嫌いになってしまう。もう1回、ここへ帰って来よう。そのときは、技術も言葉もちゃんと身につけて、店の一員として貢献できるような人間になるんだ」。このとき、弱冠20歳。「ようやくエンジンがかかりました」と当時を思い返します。
この決意を実現するため、帰国後は「銀座レカン」で修業。4年間、フランス料理の基礎を叩きこみます。忙しい毎日でしたが「どんなにつらくても、フランスでの経験に比べれば…と乗り越えられたし、そこで自分にたりないものが明確にわかった」と言います。休日はフランス語の語学教室に通い、「30歳までには料理長になる」という明確なビジョンも立て、行動に移していきました。
25歳で再渡仏し、アヴィニヨンの老舗1つ星レストラン「クリスチャン・エディエンヌ」へ。4年間の修業の成果もあり、すぐに即戦力として認められます。“肉”のポジションに配属され、順調にスタートをきったと思ったのも束の間、同僚のフランス人シェフが「僕、来週からバカンスに入るから、あと3日で仕事を覚えてね」と、まさかの大ピンチ!しかし、必死にこなして見事にやり遂げます。「1人の料理人として大きな仕事を任されたことや、その期待に応えて、ほめられたことが本当にうれしかった。しっかりとコミュニケーションをとれたことも大きな自信になりました」。その後、別の店でも研鑽を積み、27歳で帰国。「カンテサンス」などの有名店を経て、30歳で「エキュレ(西麻布)」の初代料理長に就任。「30歳で料理長」の目標を叶えました。
フランス修行時代
2012年、33歳のとき、西麻布にオープンした「アムール」のエグゼクティブシェフ(総料理長)に就任。わずか半年でミシュラン1つ星を獲得して話題になります(以後7年連続で星を維持)。その後2016年に現在の場所へ移転しました。
恵比寿駅から徒歩数分、都会の喧騒から通りを一本入った場所に佇む庭つきの一軒家は、自ら何十軒も物件巡りをする中でようやく出会った場所。「都内で庭つきのフレンチレストランって珍しいからやってみたい」と、ピンときた後藤シェフ。新たな挑戦が始まりました。
そんなアムールを訪れました
扉を開けた瞬間目に飛び込むのは、素敵なワインセラーや洗練された内装。後藤シェフのこだわりが随所にちりばめられた非日常の空間に包まれる高揚感も覚えつつ、まるで自宅に招かれたような安心感も。
コース料理は、スタートからサプライズや好奇心がくすぐられる演出の連続。フレンチだけど、どこか懐かしい…まるで懐石料理のようなゆったりとした時間の流れの中、日本古来の食材や調味料がフレンチと見事に融合している数々の料理に圧倒されます。アートのように繊細で華やかなデセール(デザート)を食べ終えるころには、「次回の予約はいつにしようかしら」と、そんな思いがすぐに頭を駆け巡ってしまうほど。リピーターのお客様が多いというのも、納得です。
四季折々の表情を楽しめる庭
白を基調とした美しい店内
ベターホームとの出会い
人懐っこい笑顔が印象的な後藤シェフ。でも、本当は自他ともに認める根っからの“人見知り”。「仕事」と割りきるとはいえ、初対面の人とはなかなか打ち解けられないのが悩みの種でした。
そんな後藤シェフがベターホームの「シェフに習う」の<フランス家庭料理の会>の講師としてデビューしたのは、2014年春のこと。それまでは、教えることはもちろん、人前で話す経験もほとんどなく、「最初の1年間は、早口だし、ずっと下を向いているし、終始、緊張のしっぱなしだった」と当時を振り返ります。でも、あたたかい受講生に見守られつつ、「これも新しい勉強」と一念発起。「どうしたらわかりやすく伝えられるか」を追求し、とり組み始めると、そのころから、大学や専門学校の講師といった教える依頼も徐々に増え、仕事の幅が広がっていきました。今ではテレビ番組にも引く手あまたに。「これも、ベターホームでの経験のおかげです」と、うれしいお言葉をいただきました。
新講習会<後藤祐輔シェフ監修 おいしい洋食>に込めた思い
「いちばんこだわったのは“再現性”です。難しい表現ではなく、再現できる内容として伝えたい。料理教室なので、やっぱり習ったものを家で作ってほしいんです。そのためには、家にある調理道具やスーパーで手に入る材料を使うことが絶対条件でした。そのうえで、たとえば、肉や魚、卵などの火入れの仕方や、絶妙な水分量の調整、ソースやドレッシングのかくし味など、聞けば誰でもできるけれど、習いに来たからこそわかるコツ、プロならではのポイントを随所に盛り込みました」。
特に苦労したのが、10月(秋冬コースは4月)の“濃厚ビーフシチュー”。「多くの人の中に、“おいしいビーフシチューとはこういうもの”という固定観念があるため、そのイメージを超えるものを作るのに苦労しました。教室では、お店で出すような品質の肉を使えるわけではないし、実習時間の制限もある。何時間も煮込んだような極上のビーフシチューにするために、調理道具選びも工夫しました。肉の下ごしらえやかくし味にもこだわり、ベターホームのプロジェクトメンバーと何度も試作や討論をくり返して完成した自慢のレシピです」。
試行錯誤をくり返す
今後目指すもの
ずっと走り続けてきた後藤シェフ。「ずっと挑戦を続けてきて、目標も達成してきました。おかげさまで店も安定し、理想としていた形もできあがってきた今だからこそ、“家庭”に寄り添った活動も増やしていきたい。“フレンチのシェフ”というと、どうしてもお堅いイメージがつきまとうけれど、フランス料理の魅力をもっと身近に感じてもらえるよう、自分なりの発信をしていきたいんです。また、このような時期だからこそ、これまで家で料理をしなかったような男性にも挑戦できるきっかけが増えるといいですよね。その手始めとしても、<おいしい洋食>の講習会はピッタリだと思いますよ」。そう笑う後藤シェフの活躍から、今後も目が離せません。
気になるプライベート
「『仕事が趣味』と言いたくないけれど、時間ができると次々に仕事の予定を入れてしまうんです。そうしないと、ダラダラしてしまうことが自分でわかっているから。リフレッシュは毎晩の“晩酌”と“コンビニアイス”」。休肝日がないほどの愛飲家+深夜のコンビニエンスストアで新商品をくまなくチェックするほどのアイス好きだけれど、その2つを心おきなく味わいつつも、体形維持のため、日々の筋トレも欠かさない。プライベートでもついついストイックになってしまう後藤シェフなのです。
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