あの人に会いたい

鎧塚俊彦 トシ・ヨロイヅカ

「わあ、きれい」より、「おいしそう!」が何よりのほめ言葉ですね
パリのコンクールで優勝、ベルギーの三つ星レストランで日本人初のシェフパティシエに就任。そんな輝かしい経歴も「僕にとってはひとつのステップ」という鎧塚さん。その職人魂の原点を尋ねた。


おいしいものを提供したい、シンプルだけどその思いが僕を動かす原動力です

Profile
よろいづか・としひこ/京都府生まれ。関西のホテルで6年修業したのち渡欧。スイス、オーストリア、フランス、ベルギーの4か国で8年間腕を磨いて帰国。2004 年東京・恵比寿に「Toshi Yoroizuka(トシ・ヨロイヅカ)」をオープンし、行列のできるケーキ店と評判になる。2010年エクアドルにカカオ農園を開設。現在は「Toshi Yoroizuka TOKYO」(京橋)、「Toshi Yoroizuka Mid Town」(六本木)、「Atelier Yoroizuka」(八幡山)、「一夜城Yoroizuka Farm」(小田原)、2018年12月にオープンしたショコラティエ「Yoroizuka EC」(恵比寿)、5店舗のオーナーシェフ。

目指したのは自分の中の金メダル
「そもそも僕は不器用なんです。恩師からも『お前ほど不器用で成功したやつは見たことがない』って断言されるくらい(笑)。『パティシエには向いていない』って、若いころはしょっちゅう言われていました」

23歳でパティシエに転身。一流ホテルで修業を積み、6年でアシスタントシェフに任命されるも、すべてをなげうって単身渡欧。スイスでパンと焼き菓子を、オーストリアで伝統的なウィーン菓子を学んだのち、フランスへ。パリ最古のパティスリーで繊細なデコレーションを学ぶかたわら、コンクールにも挑戦し、INTERSUC2000(国際製菓見本市)のショコラ・コンクールで見事優勝。その後、ベルギーの三つ星レストランで日本人初となるシェフパティシエに就任……、完璧ともいえる経歴である。とても不器用とは思えない。
「本当なんです。子どものころから、クラスのみんなが普通にできることが僕にはできなかった。でもね、だったら〝できるまでやればいい〞だけ。それは僕の武器でもあります。できるまでやり続けることに関しては自信があるんですよ(笑)」

もちろん、努力しても無理なこともある。がんばればだれでも100m 走で10秒を切れるわけではない。
「幸い、僕の選んだパティシエという仕事は、足りない部分をほかでカバーできる職業です。スポーツと違って優劣を決める尺度はひとつじゃない。一人ひとり違います。僕が目指す金メダルは僕の中にあるもの。やりたいと思うことを目標に、できるまでひたすら続けてきました。あきらめずに頑張れる秘訣?自分がやりたいと思ってやっていることは楽しい。だから続けられるんですよ」

おいしいものを作りたい
鎧塚さんの食への思いは極めてシンプル。〝カウンターデザート〞というスタイルを編み出したのも、エクアドルにカカオ農園を開設したのも、小田原にレストランとパティスリー等を併設した農園「一夜城ヨロイヅカ・ファーム」を開いたのも、「おいしいものを作りたい」、その一点に集約されている。
ワインとの相性も抜群の「ラ ゴルゴンゾーラ ピスターシュ」。温かいビスキュイ&冷たいゴルゴンゾーラアイスは、できたてならではの味わい。

「第一次産業の皆さんとコラボレーションしたり、地域活性化のための活動に参加したりしているのもそのためです。生産者の方たちに素材のことを学ばせてもらう一方で、僕は僕にできる協力をする。それでよりおいしいものが作れたらと思っているんですよ」
この「おいしさ」へのこだわりは、「宝石のように美しいと賞賛を浴びるよりも、まず『おいしそう!』だと感じてもらえることを大切にしている」という言葉にも象徴される。その原点はスイスの修業時代に遡る。毎晩遅くまで厨房に残り、技術のありったけを注いで作った菓子は、みんなに「なんて美しい」と口々にほめそやされながらも、ほとんど売れなかった。それが、美しいけれどおいしそうに見えないからだと気づき、試行錯誤して作りあげた菓子は完売。「トシ・マンデル・クローネ」と名付けられ、以後その店の人気商品に。今は鎧塚さんの店の定番商品にもなっている。「お菓子は食べものですからね、色づかいにしても構成にしても、まずは『おいしそう』であることを大切にしているんです」
これまでの経験のすべてを結集した旗艦店「トシ・ヨロイヅカ 東京」を開いた今も、新しいことに挑戦し続ける鎧塚さん。決して謙遜ではなく、「成功したと思ったことは一度もない」ということばには、家具職人だった祖父と父から受け継いだ職人魂が宿っていた。

もてなす心がごちそう
「本来ひとつの大きなものを切り分けて皆で食べることには、意味があるんです。だから、僕はせめてクリスマスや誕生日などの特別な日には、ホールケーキを囲んで楽しんでいただけたらと思っているんですよ」
気のおけない人たちと大勢でわいわいと食卓を囲む時間は何よりも楽しいものだが、準備のことを考えるとついおっくうになりがち。料理の腕に自信がなければなおさらだ。
「日本人は家にだれかを招くハードルが世界一高いんじゃないでしょうか。人に何かをふるまうとき、完璧なものを出さないといけないと思う方が多いのですが、実はそんなことはない。一生懸命もてなしてくれていると感じられるだけでうれしくなりませんか? もてなそうとするその気持ちがすでにごちそうです。まずは楽しむことが大事。自分を信じて、自分がおいしいと思うものを、自信を持って作ればいいと思いますよ」


Toshi Yoroizuka TOKYO
東京都中央区京橋2-2-1 京橋エドグラン1F・2F
東京メトロ銀座線京橋駅直結 11:00~20:00
(ショップ・カフェ・サロン併設。サロンのみ火曜休)
TEL:03-6262-6510
http://www.grand-patissier.info/ToshiYoroizuka/
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※表示の情報は掲載日時点の情報です。掲載した時点以降に変更される場合もありますので、あらかじめご了承ください。

撮影/ノザワヒロミチ 文/長井亜弓

※当ページのコンテンツは、ベターホームのお料理教室の受講生の方のための会報誌「Betterhome Journal」2019年1月号掲載の内容を、Web記事として再掲したものです。

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