黒森 洋司 楽・食・健・美 -KUROMORI-
宮城県は中国料理の食材の宝庫なんですよ。
生産者の心意気と出会いに感謝しています
宮城県産の食材にとことんこだわった本格中国料理で、全国から訪れる人々の舌を魅了してやまない黒森さん。「料理人の僕にできる復興支援」を模索しながら、仙台に移住して8年。その思いを語ってもらった。
Profile
くろもり・ようじ/「楽・食・健・美-KUROMORI-」オーナーシェフ。西麻布の「香港ガーデン」で香港出身の師匠から広東料理・点心を学び、28歳で広東料理の名店「福臨門魚翅海鮮酒家」(二子玉川)初の日本人料理長に就任。以後、数店を渡り歩いて腕を振るい、2011 年に仙台に移住。地産地消の取り組みが認められ、2018 年「料理マスターズ」ブロンズ賞受賞。
https://kuromori.jimdo.com/
※外部のウェブサイトにつながります
「うまいなあ。仙台の人にも作ってやってくれないか」
東日本大震災の年の5月。仙台で被災した友人が、東京にいた黒森さんのお店を訪ねてきた。料理を口にしてひと言、「仙台の人にも、このうまい料理を作ってやってくれないか」。その言葉が仙台移住の契機になった。
「最初から大きな目標があったわけではないんです。中国料理の料理人として、何か僕にできることがあるのなら行ってみよう。ただそれだけでした」
横浜生まれの北海道育ち。東京の有名店を渡り歩いて腕を磨いた黒森さんには、仙台の土地勘がない。意気ごんで移り住んでみたものの、居抜きで借りた店舗は街から離れているうえ、交通量も少ない場所。来店者のない日が続くスタートだった。
「移住して最初に始めたのは、大衆的な中国料理店。焼き餃子がメインで、チャーハン、担々麺といったおなじみの中国料理が気軽に食べられるお店です」
評判は次第に口コミで広がり、半年経つころには行列のできる人気店になっていく。一方で、黒森さんはSNS などを使った発信も続けた。「何か僕に手伝えることがあったら」という呼びかけに、沿岸部の漁師さんをはじめとする生産者とのつながりが少しずつ生まれ、産地に直接足を運ぶようにもなった。
海産物は新鮮だし、野菜の力も強い。宮城の食材には東京では得難い可能性がある。野菜農家、米農家、養豚場、養鶏場などを訪ね歩き、食材に愛情を注ぐ多くの生産者と出会うなかで、宮城県でなければ味わえない味、地産地消の料理にとことんこだわるようになっていった。
縁から始まった地産地消の活動
「東京にいれば欲しい食材は何でもそろうのですが、仙台は『何でもそろわない』(笑)。その代わり、『とれたて』が手に入ります。生産者の顔やこだわりを知っていて、その土地を見たこともある。そういう食材を使った料理のほうが、お客さんに伝わるんですよね。『思い』に味はないけれど、料理の大半を占めているものって、『思い』ではないかと感じています」
鍋をふりすぎて肩を痛め、体を壊したのを契機に方針転換。
宮城県は新鮮な食材に恵まれているだけでなく、世界五大乾物のうち、フカヒレ、干しアワビ、干しナマコの3つを産出している。これを日本全国、そして世界にもっと発信していこうと、2014年、仙台市内に現在の店をオープンさせた。完全予約制でメニューはコース料理のみ。その日集まった食材を使い、予約してくれた人の顔ぶれを考えてメニューを組み立てる。「その日」に何がおいしいかは、その日にならなければわからない。
2018年、生産者と人をつなぐ地産地消の活動が認められ、宮城県初となる「料理マスターズ」(農林水産省料理人顕彰制度)のブロンズ賞を受賞した。
一番大切なことは気持ちを教えること
忙しい合間を縫って、黒森さんは料理教室の講師も務める。おいしいのはもちろんのこと、手順がシンプルで作りやすいと評判で、クラスは常に満席だ。
「自宅で作る中国料理は、専門の道具もないし、使う調味料の銘柄も人それぞれ。だから、僕はどんな環境で作ってもおいしくなると約束できるレシピを考えて、教えているんですよ」
習いに来る人の向こう側にいる、見えないだれか。家族や大切な人を思いながら作る料理を伝えてあげたい。
「必ず最初に言うんです。『落ち着いて、ゆっくり、ていねいに、食べる人を思って作ってください』。その気持ちで作れば、料理は絶対おいしくなりますから」
楽・食・健・美 -KUROMORI-
仙台市太白区向山2丁目2-24
TEL : 022-211-0306
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撮影/沼田孝彦 文/長井亜弓
※当ページのコンテンツは、ベターホームのお料理教室の受講生の方のための会報誌「Betterhome Journal」2019年7月号掲載の内容を、Web記事として再掲したものです。
ベターホームのお料理教室の受講生向け会報誌「Betterhome Journal」
「おいしいって、しあわせなこと。」をキャッチフレーズに、 料理レシピや食についての情報を掲載しています。2019年7月号の特集は「うちのカレー」。夏になるとひときわ恋しくなるカレー。ベターホームの先生たちがふだん家で作っているカレーをもとにした6つのレシピと、おいしいアイディアを紹介します。